青学に「統計データサイエンス学環」が誕生へ|インタビューから読み解く狙いと未来
青山学院大学が2027年4月に設置を構想する「統計データサイエンス学環(仮称)」。学長インタビューをもとに、なぜ「学部」ではなく「学環」なのか、どんな学びが提供されるのかを整理する。

はじめに|青学の「理系」が変わる
2025年10月、青山学院大学から一つの大きなニュースが飛び込んできました。 「統計データサイエンス学環(仮称)」の設置構想です。
これまで「青山の文系、相模原の理系」というイメージが強かった青学ですが、その常識が覆されようとしています。
本記事では、AGU NEWSに掲載された学長 × 新学環開設準備室長の対談インタビューを徹底的に読み解き、
- なぜ「学部」ではなく、聞き慣れない「学環」という名称なのか
- 具体的にどのようなカリキュラムで人材を育てようとしているのか
- 既存の理工学部や社会情報学部とはどう違うのか
といった気になるポイントを整理しつつ、この新組織が目指す教育の全貌に迫っていきます。
統計データサイエンス学環とは(概要)
まずは、現在発表されている基本スペックから整理していきましょう。「青山キャンパスに理系?」と驚いた方も多いのではないでしょうか。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設置予定 | 2027年4月 |
| キャンパス | 青山キャンパス |
| 定員 | 1学年60名(少人数制) |
| 学位 | 学士(データサイエンス) |
| 連係協力学部 | 教育人間科学部、経済学部、法学部、経営学部、理工学部 |
最大の特徴は、やはり青学史上初となる「青山キャンパス × 理系 × 学士課程」である点でしょう。 また、定員が一学年60名というのも注目ポイントです。大規模な学部ではなく、かなり少数精鋭で密度の高い教育を行おうという大学側の「本気度」が伺えます。
1. なぜ「学部」ではなく「学環」なのか
そもそも「学環」とは?
聞き馴染みのない言葉ですが、日本経済新聞の記事(※)によると、これは2000年に東京大学が情報学環を創設した際に生まれた言葉だとされています。
その意味は、「さまざまな『学』を『環(わ)』のようにつなぐ」こと。
- 学部:特定の学問を深掘りする「縦割り」の組織
- 学環:各学部の強みを持ち寄ってつなぐ「横断型」の組織
通常、大学の組織は「学部」ごとに縦割りになりがちですが、実社会の課題は一つの専門分野だけでは解決できません。 そこで、法学部・経済学部・理工学部などからエキスパートを集結させ、学部の壁を取り払って知見をリング(環)状につなぐ仕組みが、この「学環」なのです。
「文理融合」ではなく「横断型」の必然性
インタビューでも、なぜ一般的な「データサイエンス学部」ではなく、この「学環」という形態を選んだのかについて語られています。強調されていたのは以下の3点です。
- データサイエンスは単一分野では完結しない
- 統計 × AI × 法 × 経済 × 経営などの横断的な知見が不可欠
- 少人数で、教員と密に研究・演習を行う必要性
データの見方というのは、英語と同じで「ただのツール」です。そのツールを使ってどう現実の問題に取り組んでいくか。これにはデータサイエンスの知識だけでは不十分で、取り組む対象(経済、法、教育など)への深い理解が必要になります。
ゼロから教員を集めて新しい学部を作るのではなく、「学環」という形式をとることで、青学に既に在籍する各分野のスペシャリストたちを横断的に巻き込む。これにより、入学直後から非常に質の高い「土台作り」が可能になるのでしょう。 大学運営的な視点で見ても、既存のリソースを結集できるため、スピード感を持って立ち上げられる点は非常に合理的だと感じます。
2. 学環で展開される学びの3つの特徴
では、具体的にどのような学びが提供されるのでしょうか。大きな特徴は3つあります。
① 「統計」を中核に据えたデータサイエンス
昨今、「データサイエンス学部」を新設する大学は増えていますが、本学の名称にあえて「統計」を冠している点が象徴的です。カリキュラム案には、以下のような硬派な科目が並んでいます。
- 確率論・数理統計学などの理論
- 実データを用いた統計的分析
- AI・機械学習の基盤としての統計
ここには、「流行りのツールを使えるだけでなく、その裏側の理論を理解せよ」という大学側の強いメッセージを感じます。
統計学とデータサイエンスの違いをざっくり定義すると、以下のようになります。
- 統計学:データから何が言えるのかを、理論的に判断する学問
- データサイエンス:データを使って実際に価値を生む技術
データサイエンスは、統計学という絶対的な基盤・理論の上に成り立つ応用技術です。 世の中にはツールやライブラリの使い方だけを覚えて「データサイエンス」を名乗るケースもありますが、これは非常に危ういことです。データの解釈は人の数だけ存在し得ますが、統計学のベースがあれば、その解釈のブレを論理的に収束させることができます。 青学が目指しているのは、AI先行のフワッとした人材ではなく、理論に裏打ちされた「本物」の育成だと読み解けます。
学びの解像度|具体的なカリキュラム例
公表されている科目例を見ると、基礎から応用までかなり体系的に組まれていることがわかります。
| カテゴリ | 科目例(一部抜粋) |
|---|---|
| 数学・統計科学 | 解析学、線形代数学、確率論、数理統計学、回帰分析、時系列分析、多変量解析、ベイズモデリング |
| プログラミング・AI | 人工知能概論、機械学習の基礎・応用、非構造化データ分析、データベース概論 |
| 実践演習・応用 | データサイエンス演習、リサーチデザイン、卒業研究 |
特にベイズモデリングや非構造化データ分析(テキストや画像など)が明記されている点から、現代の実務で求められる技術をしっかりカバーしようという意図が見えます。
また、研究対象テーマとしては「統計科学」「AI」「機械学習」といった技術軸だけでなく、「ビジネスデータ分析」「社会調査」といった社会実装軸が並んでいるのも特徴です。
② 5学部連携による社会実装
データ分析の結果を社会で使うためには、技術以外の知識も不可欠です。そこで、連係協力学部の専門性を生かした社会実装を前提とした学びが組み込まれます。
- 法学部:AI生成物の著作権や、倫理的な課題
- 経済・経営学部:データ活用によるビジネス課題解決やマーケティング
- 教育人間科学部:教育・公共分野へのデータ応用
ただ計算ができる理系人材ではなく、「それを社会でどう使うか(法的に、ビジネス的に)」まで学べるのが、総合大学である青学の強みと言えるでしょう。
③ 少人数制 × 1年次からの対話型教育
- 1学年60名に対し、基幹教員20名程度
- 1年次からゼミ形式での指導
- PBL(課題解決型)授業の導入
一般的な理系学部だと、大人数の講義が続き、研究室配属(4年次)まで教員と密に話す機会が少ないこともあります。しかしここでは、入学直後から「対話型・実践型」の教育が受けられるようです。教員と学生の距離が近い、密度の濃い4年間になることが予想されます。
3. 青山キャンパスに設置する意味
「渋谷・青山」という立地戦略
なぜ相模原ではなく青山キャンパスなのか。そこには立地戦略があります。 青山キャンパスがある渋谷エリアは、BIT VALLEYと呼ばれるITベンチャーの集積地でもあります。
出典:日経クロステック「パリピ感はゼロ」、再興ビットバレーはIT人材の集積地目指す」
- IT企業、官公庁、研究機関へのアクセスが容易
- 企業・自治体との共同研究がしやすい
- 社会人教育(リカレント)の拠点化
実際に企業から生のデータをもらって分析したり、インターンに参加したりといった活動において、渋谷という立地は圧倒的なアドバンテージになります。学環は、単なる教育機関にとどまらず、青山キャンパスを「データサイエンスのハブ」にする役割も担うことになりそうです。
4. 既存学部との違い
「理工学部や社会情報学部と何が違うの?」という疑問に対し、インタビューでは明確な棲み分けが語られています。
| 学部・学環 | 学びの重心 | 特徴 |
|---|---|---|
| 理工学部 | 基礎科学 | 物理・化学・工学の基礎を修めた上で専門へ |
| 社会情報学部 | 文理融合 | 情報と「人・社会」の関係性を研究 |
| 新学環 | データ特化 | データそのものから知を引き出す理系学問 |
社会情報学部が「情報の社会への応用」を文理融合で学ぶのに対し、新学環はデータサイエンスに特化し、あくまで理系ベースで突き詰めるスタイルです。他分野(経済や法など)をサブスペシャリティとして学ぶことで、専門性をより鋭く磨いていくイメージでしょう。
5. 想定される進路とキャリア
卒業後の進路について、インタビューの中で特に印象的だったのが、大学院進学を強く意識した設計であることです。
- データサイエンティスト / AIエンジニア
- コンサル・マーケティング
- 金融・FinTech / リーガルテック
- 大学院進学・研究者
AIやデータサイエンスの世界は日進月歩であり、学部4年間だけでトップレベルの専門性を身につけるのは容易ではありません。高度な専門職を目指すため、学部4年間で終わらず、修士・博士課程まで一気通貫で学ぶことが推奨されています。
ATC視点|この学環が持つ意味と、私たちにできること
この新学環は、青学の「文系大学」というパブリックイメージを更新する存在になるはずです。そして何より、統計・データサイエンスを軸にした学際的な実験場が青山キャンパスに生まれることに、私たちはワクワクしています。
我々、ATC(Aoyama Tech Community)としても、この動きは非常に重要だと考えています。 2027年の開設を待たずとも、今いる私たち学生が統計やデータサイエンスを学び、実践していく土壌を作りたい。新学環ができたとき、スムーズに交流できるような最初のスロープのような機能を担えればと考えています。
📢 仲間を募集しています 「データサイエンスに興味がある」「Web開発と統計を掛け合わせたい」 そんな知識や意欲がある方は、ぜひ私たちと一緒に記事を書いたり、活動したりしませんか? 青学のテックカルチャーを、学生の手で盛り上げていきましょう。
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どんな人が向いている?(アドミッション・ポリシーより)
最後に、大学側が公表している「求める人物像」や「育成像」の要点をまとめておきます。
求められている基礎力
- 数学の基礎学力(やはりここは必須!)
- 多面的かつ論理的な考察力
- 自分の認識や疑問を他者にわかりやすく伝える表現力
目指すゴール:サーバント・リーダー
青学のスクールモットーでもある「サーバント・リーダー(奉仕するリーダー)」がここでも登場します。 データサイエンスの文脈では、
データの品質と量を見極め、独自の調査企画ができ、そこから得た洞察で社会課題を解決する
そんな人材が定義されています。単に計算が速い人ではなく、「データを使って誰かの役に立ちたい」「社会を良くしたい」というマインドを持つ人が歓迎されそうです。
おわりに|「Why」を問える人へ
インタビューの最後、学長と室長が挙げたキーワードはWhyでした。
- ニュースのグラフを見て「なぜ?」と疑問を持てるか
- 数字の裏側にある背景を考えられるか
- 自分なりの解釈を持とうとするか
そうした問いを立てる姿勢を持つ人にこそ、この学環の扉は開かれています。
(※本記事はAGU NEWSの記事をもとにした非公式まとめです。最新情報は必ず大学公式発表をご確認ください)
Source:
ヴィンセント
青山学院大学経済学部在学中。楽天、LINEヤフーでのインターン経験あり。 文系からエンジニアの道に進む中で、環境構築やエラー解決に苦労した経験から、 同じように悩む人の役に立ちたいと思い、このサイトを立ち上げました。




